芸術的な奥深さを湛えたバーウォールナットの杢目と深く力強く彫り込まれたエッジが印象的なトレイトップテーブル。
トレイトップテーブルは取っ手が付いたものや縁を折りたたむものが多い中、こちらは一見するとカーヴィングが豪華なティーテーブルのよう。しかし、その天板はトレイとしても使えるように作られた少し特別な仕様です。実用性を重視しがちなトレイトップのテーブルとしては珍しく、見た目にもこだわリ、ティータイムなど一息つきたいときに、優雅な時間を約束してくれる才色兼備な逸品です。
【Women Taking Tea by Albert Lynch (1851-1912) 】
トレイ天板のバーウォールナットは、クォータリング(quartering)という技法により美しいシンメトリーが作り出され、その魅力を最大限に発揮しています。17世紀の英国に伝わったこの技法は四文法ともいわれ、1720年代まで家具の装飾に多用されました。寄木張りの一種で、木材を薄くスライスし4枚の化粧板を作るのですが、現代のような機械などない時代、職人には高い技術が要求されました。その4枚化粧版の左隅を合わせて四角形に並べると左右対称の木目を作ることができ、さらに木の瘤(burr)を使うとその独特の杢目により、思いもよらぬ絶妙な模様が生まれることがあります。
楕円形を連ねた丸ひだの帯状装飾はガドルーンと呼ばれ、語源はフランス語のgodron(ゴドロン)より。広くは、縁に彫りの装飾が施されたものを総称してガドルーンエッジと呼ぶこともあるようです。その丸みを帯びたフォルムは木製家具だけでなく、銀食器や陶磁器の絵付けにも用いられました。
【3 gobelets ornes de godrons】
このトレイトップにもガドルーンエッジのようなカーヴィングが施されていますが、通常、膨らむように彫られるものが多い中、こちらは反りとひねりで波打つようなカーヴが表現されています。さらにフランス国家の花アイリスを様式化したと言われるフルール・ド・リス(fleur-de-lis)の意匠を思わせるような4つのポイントがあしらわれ、その表情はより豊かに、見る者を愉しませます。
また、トップのバーウォールナットはクロスバンディングでさらなる装飾が施され、希少さと美しさを増しています。クロスバンディングとは、木目の方向を変えて化粧張りに変化を付ける技法です。帯状の直線的な装飾が多いのですが、こちらの天板はエッジの飾り彫りと呼応するかのように象られ、まるでフルールドリスが湖面に映し出されたかのよう。
そして脚先は18世紀から続くボールアンドクロウ。獅子や鷲の爪で龍が持つ珠を掴むモチーフは、大きな夢の実現や大成を意味するとされ、家具の脚の装飾に多用され、そのリアリティ溢れる意匠は力強く見る者を惹き付けてきました。細部に至るまで一つ一つ丁寧に仕上げられた細工からは、職人が積み上げてきた確かな技術と高い誇りが伝わります。
アンティークと呼ばれる家具は、自然の恵みを受けられた材、磨き抜かれた意匠、そして作り手が長年培った技術によって生まれる特別なもの。それらは決して数多くはないでしょう。偶然や幸運が結びついて生まれた唯一無二の存在に触れてみてください。
■英国
■主素材:ウォールナット
■推定製造年代:1900年代
■サイズ:幅66.4/奥行44.2/高さ69.2cm
■トレイを乗せた天板高さ:65.5cm
■トレイを外した天板高さ63cm
■こちらのお品物はアンティークです。新品家具にはない小傷や歪み等がございます。アンティーク家具の特性につきましては
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