ヴィクトリア後期にキャビネットメーカーMaple社 (Maple& Co)によって作られた、美しいチェアのご紹介です。
まず「Peddle」についてのご説明から。
由来は英国出身の家具職人、デザイナー、建築家である「James Peddle/ジェームズ・パドル(1862-1930)」。ウィリアム・モリスらが提唱した「アーツ&クラフツ」運動に家具職人として深く関わり、1889年にはオーストラリアでH.アーネスト・ウォーカーとともに建築事務所を設立。後年参加したサミュエル・ジョージ・ソープらと、ペドル・ソープ・アンド・ウォーカー(現在はPTWアーキテクツ)名にて住宅建築から商業・産業建築設計にも優れた事務所へと事業を広げました。
またこのチェアにはもう一人の人物が関わっています。
英国、ブリストル出身の建築家、デザイナー「Edward William Godwin/エドワード・ウィリアム・ゴドウィン(1833-1886)」。彼はヴィクトリア中期に「ラスキン・ゴシック(ゴシックリバイバル)」様式で中世色の強い建築を手がけ、1862年にはロンドンで開催された万国博覧会で日本文化に大きく影響されます。「アングロジャパニーズテイスト」を提唱し、住宅の設計をはじめそれに伴うインテリアデザイン、そして1870年代から1880年代にかけてはリバティ社を中心に彼が手掛けた壁紙や生地、タイル、芸術的な家具などが展開されました。
今回ご紹介するチェアは、前述のゴドウィンによりデザインされ、パドルによって製作されたチェアがオリジナルとなっています。ただ、18世紀のトーマス・チッペンデールが源となるチッペンデールチェアが必ずしもチッペンデール本人によるものではない(本人作なら博物館行ですが)ように、このチェア自体もパドルによって製作されたものであるとは断言できません。
アンティーク市場でみられる"Peddle"チェアはアームが付いていたり、脚がスペードレッグだったりするものもあり、様々なバリエーションがみられますが、共通するのは美しくカーヴを描く背もたれ。
今回ご紹介するこのチェアは、"Peddle"チェアのバリエーションのひとつとして、Maple社が制作したものと思われます。材はマホガニー、他にはない特徴としてはトップレイルにインレイが施されていること。そして"Peddle"チェアの特徴である背もたれ全体を覆うカーヴを描いた沢山の背柱はとても美しく、見る角度を変えるたびに異なる表情を見せてくれます。
座面の下には古い紙製のラベルが残り、「Maple & Co No.3823 TO HER MAJESTY LONDON」の文字をみることができます。(文字が欠けているラベルもございます)Maple社はもともとロンドンのTottenham Court Roadを本拠地とし、後にパリ、その後はブエノスアイレスにも支店を持ちますが、このラベルはまだパリには進出していない時代のものと考えられます。1905年にはパリの名前が入ったカタログがでていますので、このチェア自体はそれより前、おそらく1890年代頃と推測いたします。*Maple社の歴史については当店ブログにてご説明しています。
こちらからどうぞ。
座面は当店が英国で買い付けたジャガード織で張り替えを行っております。全体として黒色の生地ですが、風通織で織り出された唐草文様で、表情豊かなモール糸とサテン地の対比が際立つクオリティの高いファブリックです。
英国アンティーク家具は多くありますが、人の名前が残るものは限られています。前述のチッペンデール、そしてヘップルホワイトやロバートアダムなどが有名なところかと思います。彼らより認知度は低いかとは思いますが、ジェームズ・パドルの卓越した設計による"Peddle"チェアも、そのうちのひとつといえるのではないでしょうか。
ヴィクトリア時代、意匠への挑戦者達によるひとつの完成形は、これから貴方のお役に立つべく佇んでいます。世紀を超えた古艶と共に、匠たちの仕事をご堪能ください。
■英国
■Maple&Co
■主素材:マホガニー
■推定製造年代:1890年代
■サイズ:幅43.5-44/奥行50/高さ84.5-85cm(座面までの高さ高約48cm)
■2脚の在庫は紙ラベルの残り具合が異なります。ご指定がある場合はご注文時にその旨をお伝えください。
■2脚は杢目やコンディション等が多少異なりますことをご了承ください。
■こちらのお品物はアンティークです。新品家具にはない小傷や歪み等がございます。アンティーク家具の特性につきましては
こちらをご一読ください。