珍しいモチーフを持つ、堂々たるジャグのご紹介です。
まず、底面には窯元のバックスタンプからご説明いたします。
Burleigh Ware
BURGESS & LEIGH
EST 1851
Burslem
England
これはイングランド、ストークオントレントで創業し、現在でも続く「バーレイ」社のもの。
もともとは、1851年ストーク・オン・トレントのバーズレムに創業した「ハルム・アンド・ブース/Hulme and Booth」という陶磁器メーカーが前身であり、1862年、フレデリック・ラスボン・バージェス/Frederick Rathbone Burgess と ウィリアム・リー/William Leighがパートナーシップを結び、ハルム・アンド・ブースを引き継ぎ、会社名を「バージェス&リー/Burgess & Leigh」と変更。そして二人の名前を組み合わせた「Burleigh/バーレイ」が商標とされました。
このバックスタンプは1940-1950年代頃のものと思われます。
そしてバックスタンプの下には以下の文章がみられます。
"The Village Blacksmith"
Under a spreading Chestnut Tree
The Village smithy stands
村の鍛冶屋
枝を広げた栗の木の下で
村の鍛冶屋が立っている・・・
これはアメリカの詩人「Henry Wadsworth Longfellow/ヘンリー・ワズワース・ロングフェロー(1807-1882)」による作品「The Village Blacksmith」の冒頭部分です。
Henry Wadsworth Longfellow on the Isle of Wight,
England in 1868 by Julia Margaret Cameron
もともとロングフェロー家は1676年にイングランドのヨークシャーから新大陸に渡ってきた一族でありました。1807年、ロングフェローはメイン州ポートランドで生まれ、ボウドイン大学で学びました。その後ヨーロッパで過ごし、帰国後ボウドイン大学の教授となり、後にハーバード大学の教授となります。彼はディケンズとも親交が深く、作品は英国でも高く評価され、死後ロンドンのウェストミンスター寺院の詩人コーナーに記念の胸像が置かれた最初の非英国人作家となったほどでした。
「The Village Blacksmith」は村の鍛冶屋である男の日常生活を描写したもの。額に汗しながら淡々と働き、誰に借りもなく信心深く一人で子供を育てる日常が綴られ、栗の木に象徴される深く根付いた強さを持った人間として描かれ、発表と同時に多くの人の共感を集めました。
このバーレイ社のジャグは、この詩をモチーフに制作されたということでしょう。
生き生きとした葉を広げる栗の木の下、もくもくと作業をする鍛冶屋が立体的に表現されており、他では見ない珍しいジャグとなっています。バーレイ社は主として小花模様の転写紙を巧みに使用した食器で有名であり、このようなピースは珍しいかと思います。
英国には鍛冶屋が職人の王であることをアルフレッド大王に認めさせる伝説があるといいます。それほどに「すべての仕事は自分たちに始まる」という誇りをもった仕事が鍛冶屋というもの。そこにロングフェローが、当たり前に暮らす人としての日常を加えたことで、さらに深く人々の心に入っていったのではないでしょうか。
英国老舗窯元による珍しいひとしな。
ロングフェローの詩を読み解きながら、是非お手元でご鑑賞ください。
■英国
■BURGESS & LEIGH
■主素材:陶器
■推定製造年代:1940-1950年
■サイズ:全体高さ約22cm 底面直径約11.8cm 取っ手含む幅約18.5cm
■カケやヒビは見当たりません。
■こちらのお品物はアンティークです。新品にはない小傷や染色のトビ等がございます。