エスクリトワール/escritoireとはフランス語で書き物机のこと。
18世紀頃からそう呼ばれる机が存在しており、主として書台の部分を折りたたむことができる机をそう呼びました。一般のデスクの様に引き出しがついたタイプや、書台の部分を閉じるとまるでスクリーンのようになるものなど、様々なタイプがあります。英語ではSecretary(desk)と呼ばれることもあります。ヨーロッパのアンティーク家具においては総じて良い木と高い技術を駆使した高級家具であり、ほぼ必ず鍵を掛けて何かを仕舞える部分がついているといってもよいでしょう。
今回ご紹介するエスクリトワールは、そのなかでも素晴らしいマーケットリーをほどこされた、まるで一幅の絵のような作品。書台格納時は、すらりとしたスクリーンのようなフォルム。選び抜かれたマホガニーだけが持つ輝く杢目に、花籠の象嵌細工が施されています。天板やストレッチャーまわりにも細かな象嵌細工が配されており、優雅さが際立ちます。
書台を開けば、深いバーガンディー色のレザーで設えられたステーショナリーラックが現れます。葉書や手紙などを効率的に仕舞えるスペースがあり、上正面にはカレンダー等がセッティングできるような場所も設えられています。同材のライティングマットがセットになっており、マットの下は同じマホガニー材で仕上げられています。ライティングマットには箔押しで以下の文字がみられます。
W.THORNHILL & CO
144. NEW BOND STREET
LONDON
「W. Thornhill & Co」とは、もともとは1734年Joseph Gibbsによって刃物商として創業し、1850年頃にはWalter Thornhillによって運営されるようになり、1875年にはWalter Thornhill & Co.となった会社の事。ニューボンドストリート144番地に店を構え、やがて刃物に加え金銀ジュエリー、ドレッシングケースに旅行鞄等々幅広く高級品を取り扱う商会となります。取り扱いは小物がほとんどでしたが、時折大型のステーショナリーケースやワーキングテーブルにレザーで仕切りなどを緻密に施したものも取り扱っていたようです。
W. Thornhill & Co. travelling bags 1880 Advert for W. Thornhill & Co
同社の製品は1851年ロンドン万博をはじめ1855年、1862年、1878年のパリ万博において複数のメダルを取り大層繁盛しました。1905年に会社は解散しましたが1912年までは同名で事業が続けられました。同社の品揃えを考慮すれば、今回ご紹介しているエスクリトワールは恐らくは量産品ではなく、限定品もしくは受注品として一部の顧客のためだけに誂えた品物なのではないかと思われます。
18世紀よりロンドンのハイブランドの中心として、世界の一流ブランドが軒を連ねるボンドストリートから世紀を超えて届いた、特別な美しきエスクリトワール。
貴方の秘密の書斎にいかがでしょうか。
■主素材:マホガニー
■推定製造年代:1890年代
■サイズ:幅58/奥行45/高さ111cm
■天板までの高さ:69.3cm
■天板を開いた際の全体の奥行き:68cm
■こちらのお品物はアンティークです。新品家具にはない小傷や歪み等がございます。アンティーク家具の特性につきましては
こちらをご一読ください。
*買い付け時には、ライティングマットは書台に釘留めされておりました。
外してみたところ、仕上げられたマホガニーが現れましたので、そのまま軽くポリッシュで仕上げました。
*ライティングマットのオリジナルの紙には書き込みが多数ございます。似た色のレザー(人工皮革)で上掛けを作成いたしました。
このままご使用いただいても、ご希望により接着させていただく事も可能ですので、ご注文の際にはご用命ください。
*書台は本体に納めた際には若干に左右の納まりが異なります。画像にてご確認下さい。
*施錠可能な鍵を1本おつけいたします。基本的に施錠しなくても書台は安定して閉じておりますので、頻繁な施錠はおすすめできません。