ウォールナットの古艶としなやかな曲線を描く脚が優雅なヴィクトリアンサザーランドテーブル。
サザーランドテーブルとは大きく拡張できる折り畳み式のテーブルのこと。脚をゲート(門)のように開き、その上に天板を乗せて使うテーブルをゲートレッグテーブルと言いますが、中天板の幅が狭く、畳んだ時に細くコンパクトになるものがサザーランドテーブルと呼ばれています。対して両サイドの天板は大きく、拡張時はお茶や書き物をするにも十分な広さです。
サザーランドという名前はヴィクトリア女王の女官長であり、親友でもあったハリエット・サザーランド侯爵夫人が作らせたことに由来すると言われています。ジョージ・ハワード伯爵の三女として生まれた彼女はジョージ・サザーランド公爵と結婚し、様々な慈善活動に携わるなど、ロンドンの上流社会で重要な人物となっていきました。ヴィクトリア女王の女官長に任命され、若き女王との信頼関係を築いた彼女は「女王と見間違う」と言われるほど物腰が洗練されており、女王からも宮廷人からも絶大な信頼を寄せられていたと言われています。
【The State Portrait of Queen Victoria by George Hayter(1792-1871)】
時代はヴィクトリアン後期、英国の「モダンデザインの父」と呼ばれるウィリアム・モリスが提唱するアーツ&クラフツ運動が起こります。生活と芸術の融合、機械化による大量生産よりも手仕事によるクラフトマンシップの充実を訴え、美術・芸術分野で大きなムーヴメントとなりました。それは「新しい芸術」アール・ヌーヴォーとなり、国際的な美術運動としてヨーロッパに広がっていきました。自然が持つ官能的とも言える美しさを、可能な限り曲線で表現し、その波打つ旋律で美の調和をもたらしました。
マホガニーで作られることが多かったサザーランドテーブルですが、こちらはウォールナットを使用しています。その流れる木目に現れた奥深い色艶の天板は、吸いつくようななめらかな肌触り。さらにこのテーブルを特別なものにしているのは、しなやかな曲線を描く優美な脚。すべての脚には一切角がなく、その姿はどこまでも柔らかく流麗に洗練されています。直線の脚が多いサザーランドテーブルにおいて、ここまで優雅な曲線を描く脚は滅多にありません。側面には植物の葉がカーヴィングされ、あらゆるところまで美が追及されています。その脚と天板エッジは共鳴するようにカーヴを描き、アール・ヌーヴォーの神髄である自然美が可憐に瑞々しく表現されています。まさに公爵夫人の上品で芯のある美しさが息づいているようなテーブルです。
【Drinking Coffee and Reading in the Garden by Edward Killingworth Johnson (1825-1896)】
軽くコンパクトな仕上がりのため、移動に便利で屋外に持ち出して使われることもあったようです。優雅なテーブルを眺めながら庭でお茶や読書を愉しむというのはいかがでしょう。
■英国
■主素材:ウォールナット
■推定製造年代:1890年代
■サイズ:幅27.7(拡張時幅88cm)/奥行73.5/高さ67.5cm
■こちらのお品物はアンティークです。新品家具にはない小傷や歪み等がございます。アンティーク家具の特性につきましては
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